人魚の夢

2004年7月25日
さよならは
着飾った一人の女

砂浜に立って海を見ている男の白黒写真を見て
古い雑誌を繰る指が止まった

彼がどこを見ているのかは分からなかった
この海はどこの海か
外国の海か
日本海か太平洋かバルト海かエーゲ海か死海か
実は湖かもしれないのだが

記憶の海から引っ張り出した色は美しい

桟橋の端には釣り人
砂に足跡をつける俺

考えてみると
どの海も日本海のような気がする
日本海(と修学旅行で行った沖縄の海)しか知らないからか

遠くの方まで海が続いている 
だから視線は動かす必要が無い
鎖骨辺りに居座った首から上の感覚を解放し
足首から下を砂浜に根付かせ
ハマナスのように
ハマナスのように海を見ていると

孤独な人魚の
泣くような歌声が聞こえてくる
虹色のうろこが月の光を返すので
海を照らす灯台の光はふて腐れている

海は暗いから悲しいのか
と彼の背中が言っている

さよならは
着飾った一人の女

陸に上がった女が髪を束ねるのを
岩陰から見ていた
着物の下から時折のぞく
しっとりと濡れた身体が
月の光を散らしている

結局のところ
俺は人魚の夢を見たのだった

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